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リストマーク 霧島さんの話 

2014年01月30日 ()
頭に降ってくる電波を翻訳シテいくかんじのアレ。

■霧島さんの気がかり。■


 メガネ鎮守府は今日もやや霧が濃い目にかかる朝を迎えている。こういう時は決まって霧島が鎮守府を初めて訪れた日を思い出すものだ。あの日は今日よりもさらに濃い霧が立ち込めていて、比較的小さな島の入り江を改造して造られた軍港に降り立った彼女はここはまるで自分の名前そのものですね、と小さく笑ったのがやけに印象深く感じられたのだった。

 霧島はこの鎮守府内では比較的新参であり、最古参の吹雪を筆頭に子日、朧、潮といった駆逐艦娘や龍田、天龍をはじめとする軽巡娘たち、それから次々と加わっていった重巡娘・軽空母娘などがひしめく中、4番目の戦艦娘として赤レンガの住人に加わった。
 彼女がこれまでの娘達と確実に違っていたのは、自ら提督の執務室に出向いて作戦立案書を提出し、積極的に艦隊運用と敵深海棲艦らの殲滅計画を進めようとしていた一点に尽きると言っていいだろう。彼女以前にも作戦立案に参加する者は存在してはいた。正規空母・赤城と翔鶴、重巡をまとめる利根と参謀を自称する鳥海。軽巡の指揮をとる長良。そして第一秘書たる駆逐艦吹雪。彼艦はいずれもそれぞれの冷静さやカリスマ性、堅実な判断力などによって艦娘たちの関係性を円滑に保ったり作戦遂行時の連携を適切にこなす能力には秀でていたが、論理的な思考力や戦略的計画性についてはその才能を練磨させてはいなかった。当然のことではあるが、実働部隊に過ぎない彼艦にそれらの能力は必要とされることはないしその権限も許されてはおらず、それらの権限と責任は凡そ提督ただ一人にゆだねられていたのである。そういった背景のある中で、霧島は唯一、赴任当日から執務室に乗り込んで、提督に委任されたすべてのうちの一部について自らが助けとなり、あるいはお目付け役ともなることを宣言してみせたのだった。ある者は差し出がましいと嘯き、ある者は物好きだと揶揄したものだが、日々の執務室往復が継続し、次第にその辣腕ぶりが赤レンガの隅々まで知れ渡るようになると、霧島へ向けられる視線は徐々に、しかし確実に好奇と忌避の眼差しから信頼と尊敬のそれになっていくことになった。それまで提督に集中していた責務が着実に圧縮され、提督の空いた時間が艦娘達へのケアに向けられることによって得られた収穫はそれこそ全ての者に恩恵として振る舞われたという事実が、この霧の濃い軍港島の淀みがちだった大気を変質させる結果を生んでいた。すべてが上手く運んで行くように思われたのだ。


 薄暗く立ち込めた雲が島と沿海を覆っている。執務室から臨む軍港とその先の海は空と同様の色合いを映していて、そんな時は仰々しい椅子と執務机に張り付きっぱなしのこの身が疎ましくなる。着任してどれほどになるか、提督としては限りなく素兎であり、取り立てて有能という評価もなく何故にこの島に赴任と相成ったのか、どれほど考えても思いつかない程度の見識しか持ち合わせていない。それでもこれまで何とかやってこれたのは限りなく幸運に恵まれ、かつ大本営からの支援が的確であったこと、そして艦娘達の奮闘の賜物に過ぎない。第一秘書吹雪の常識的かつ正確な現状把握力と助言によって日々の任務と資材管理、建造開発出撃遠征演習の手配と物資輸送計画を辛うじて回すのが関の山で、艦娘たちへの精神的ケアにまで手が回らないのが実状だった。それでも規模の小さな内は手の空く限り艦娘に声をかけてはいたのだが、赴任艦娘の拡充とそれにともなうドックの増設、担当海域の拡大を経てそれらは物理的にも時間的にも困難を極めた。有限であるのは資源ばかりではないのだ。どうにかしなくてはいけない、じりじりとした重圧が少しずつ新米から脱却しつつあるべき存在である提督の精神を蝕んでいて、それを察して吹雪は早くから秘書の数をひとりふたりと増やして各艦隊と鎮守府の運営を捌くようにと提案をしてくれた。著しい戦果を挙げ、持ち前の行動力と統率力で艦隊を引っ張っていく力を備えた長良、明るい気質で雰囲気を和ませながらも適宜業務をこなしていく漣、やや視野狭窄しがちで精神的に浮沈が激しいが型にはまると目覚ましい働きを見せる曙。小柄な外見と裏腹に豪快な指揮と器の広さで前線を支える利根。こういった面々は、大所帯となった艦隊の秩序あるいは関係性を維持する鎹として大いに働いてくれていた。それでも、微かではあるが確実な亀裂というものが、蟻の一穴から決壊を招く堤の如くに、暗く湿り気を帯びた大気とともに赤レンガの建物に広がっていくのを、今から思えば誰しもが感じていたのだ。

††
 赤城が大本営から派遣されてきたのは、まだ戦艦が扶桑と山城の姉妹が邂逅を果たしたばかりの時期で、その時には正規空母も蒼龍と翔鶴のふたりが代わる代わるに奮闘をしていて常に生傷の絶えることがないような状況だった。それを補うように軽空母の諸姉も必死で海域を駆けまわっていた。駆逐艦・軽巡の者たちは、新たな海域で出会う戦艦級・空母級の敵棲艦の強さにすっかり参っていて、命知らずの五十鈴や天龍までもが時折弱音めいた愚痴をこぼす程度に弱ることもあったほどだった。艦隊の主力の一翼を担っていた足柄は、戦いを得意としない末妹を前線に出すまいとし、あるいは自己の矜持と快楽衝動を満たす為に常に最前線に躍り出て敵と己の身を引き裂いて帰るのが日課だった。入渠した彼女は戦場に舞い戻ることだけを希求しあらゆるものに自身の回復を要求した。それは祈りではなく、ただ要求だった。そういった状況に放り込まれた赤城は、自分こそがこの惨状から脱し、鎮守府の栄光を挽回するべき使命を負ったものだと考えたのか、血気に逸って大破し生死の境をさまよった。慢心を律して不惑につとめようとするあまり、精神の天秤を逆方向に振り切ってしまっていた。しかしそういった事に気づくには、提督は赤城との接点をあまりにも持っていなかった。赤城の性急な蛮勇さを見誤って、当分の間鎮守府警護の任に宛てた。赤城は唯々諾々と従ったが、その姿を目の当たりにした翔鶴による抗議によってようやく提督は己の処置の軽率を知ることになった。
 そんなふうにして、どこか歯車が乱れたまま、疲弊する戦いは連綿と続いた。

‡‡
 海の底からやってきた脅威であるところの「深海棲艦」はまさに敵性勢力以外の何物でもなかった。突如として現れたその、深海生物のフォルムを持ちつつもヒトに生理的威圧感を与える醜悪な外見を持った“駆逐艦”の編隊を先鋒とした何かは、ただヒトが勢力を伸ばしてきた海域に出没するようになった。従来のヒトが所持していた艦船戦力では僅かに及ばず、善戦はできたものの撃退するまでには至らなかった。その存在が確実に知られてからは大兵力の逐次投入によって前線を守ってはいたが、じりじりと疲弊する兵力と、「規模が杳として知れず、不定期かつ意図不明な海棲艦の海域周遊」という事実が海軍の焦りと混乱を煽っていった。
 そうして少しずつヒト包囲網が構築され、ヒトの支配海域は少しずつ切り取られることとなった。霧の深い、本土から遠く離れたメガネ島鎮守府もまた、その切り取られた版図の一部に他ならなかった。海軍はやむなくメガネ島を放棄し、後方撤退を余儀なくされたのだった。
 そんな折に綺羅星の如く現れたのが、「艦娘」である。

 最初にヒトとの遭遇を果たした「艦娘」は、ヒトの手により艤装を与えられ、最初は演習の相手として実験的モルモットとしての立場を与えられた。しかして非人道的な扱いを受けることによって疲弊し一度は離別の危機を迎えたが、ある一人の技術者との精神的結束と物理的コミュニケーションによってかろうじて和解を遂げ、以降は「どこからか現れ、ヒトの許に引寄せられる」性質を見出された艦娘の卵とも呼ぶべき艤装マウントラッチを持った少女がたびたび訪れては海軍の保護下に置かれる、というサイクルが生まれた。驚くべきことに、艤装を装着された艦娘が増えていくにつれ、新たに訪れる艦娘はヒヨコと呼ぶべきか、艤装を装備した状態で現れ出したのだった。時の海軍はまさに金の卵を得た思いで艦娘関連に予算を注ぎ込む決定をし、その中で、このさびれて久しい前線基地港であるところのメガネ島奪回作戦が立案される経緯となった。
 実験的に投入された艦娘達は、当時の提督のカリスマ性と有能さに支えられて獅子奮迅の戦いぶりを見せ、多大な戦果を挙げた。いくつかの、奪われ放棄された軍港を奪回し曾て喪った版図を取り戻してみせた。その裏には“幾隻”もの
犠牲を伴ったものの、彼艦たちは確かに海軍における立ち位置というものを確立してしまったのだった。幸か不幸か、海軍において彼艦たちの力は必要不可欠なものとなりつつあった。と同時に、その事実を憂慮する者もまた一定数あるもので、次第に艦娘たちの居場所は本土から距離をおかれるようになる。
 状況ここに至り、メガネ島奪回の成功とともに、最も失われて構わない人材が提督として派遣されることになった。最前線の各鎮守府の中で最も重要度が低く、かつ本土との距離も離れた軍港であるこの島は、かつてはヒトの内紛を睨む形で建設されていたから海棲艦の周遊海域に対しての備えとしてはそれほど利便性も高くない。少なくとも、現状における重要軍施設とみなされていないのは、この島にかけられた予算を見ても確定的に明らかであって、それでも予算が出たのだから今の海軍のイケイケ具合は相当な勢いなのだ、と島の古参である工廠長は麦酒片手に新米提督を歓迎した。
 新米提督は相当の下戸だったから、それから三日間は工廠と併設された酒場には現れなかった。

‡‡‡
艦娘達の宿舎は菊華寮と呼ばれ、軍港・開発工廠入渠ドック群、鎮守府庁舎とともにほぼ正三角形の頂点という形で配置されている。
 菊華寮の建物はモダンな洋風を基調としていながらも、どこか野暮ったさを残した様式の3階建て鉄筋コンクリート建築である。この建物は完全な新築であり、元は倉庫群の一角だった場所を更地に戻し、新たに建造された。
 この寮が作られたのは、その要請として「艦娘」の存在というものがあることは明らかで、その不可解な概念は長らく崩壊したまま放置されていたこの軍港の再整備と稼働の原動力となるものだった。
 「彼女たち」は一見、そこいらにいる可憐な少女であったが、艤装を取り付けられることで軍艦として機能するという聊か、いや完全に人間の理解を超越した存在であった。ヒトとしての姿を持ったその何かわからないものはしかし、その立ち居振る舞いや男達に対する態度、言動、行動様式の全てにおいてヒトのそれと変わらないものであって、実際のところ普通の人間との区別をつけることがほぼ不可能である時点で「訳の分からない、高い戦闘力を秘めた生命体」という枠から「ちょっとだけ他の人とは違うだけの普通の女の子」という枠への概念遷移が起こるまでそう時間を必要としなかった。
 そんな経緯を以て培われた艦娘に対する意識が、この全寮制女子校の寄宿寮をそのまま踏襲したような、しかして今一つあか抜けない印象を拭い去れない建築物を顕現させるに至った所以である。

 鎮守府庁舎通称“赤レンガ”は、かつてはその通り名が示すようにレンガ造りの時代がかった建物であったのだが、現提督が着任する前に二度の深海棲力の蹂躙を赦してしまい一部を除いて破壊されてしまったために現在は当時の赤レンガは名残程度に現庁舎の片翼、向かって左側部分の港に突き出している会議・娯楽棟の一角にのみ見られる。それ以外はむき出しの打ちっ放しコンクリートの灰白色が建物全体の色調を決定づけている。それでも「赤レンガ」と呼ばれ続けているのには、従来からの慣例を容易に変えられないこの島の住人たちの不器用さと、ある者が戯れに「白コンクリ」と呼んだ時の語呂の悪さに対する拭いきれない違和感が寄与していると考えられた。
 鎮守府庁舎は菊華寮に先駆けて修復され、整備されていた。提督の赴任と同時にその秘書艦として就任した艦娘「吹雪」は、菊華寮がまだ完成していなかったために庁舎の一角である仮眠室に寝泊まりする流れとなった。一方の提督はといえば府庁舎の裏側に渡り廊下を介して併設された官邸で生活する。提督は官邸の一室を宛がおうと提案したが、にべもなく断られた。
 
 軍港は工廠・入渠ドックをそれぞれ二隻ぶん抱えていて、最初はこんなに広くても居心地が悪い、と吹雪が苦笑いする程度の規模を誇っていた。広さだけなら他の鎮守府に遅れは取らないぞと軍港管理人は胸をどんと叩き、その後で、提督にやっと聞こえるくらいの声量で「この港が一杯になるくらいの働きを頼む」とこぼした。提督は頑張ります、と答えるのが精一杯で、その言葉の意味をゆっくり反芻する余裕を持てるまでになるには、かなりの時間を必要としたものである。つまり、霧島によるメガネ島の改革が効果を顕わにするまでの時間を必要としたのだ。

††††
 提督は、ふうと一息ついて肩と首を回転させた。デスクワークは嫌いではないが、長時間机とにらめっこする時間が続くと体が悲鳴をあげるから定期的なストレッチと、軽い散歩が日課となった。
 最初の頃は吹雪も一緒になって庁舎の回りを歩いたり、軍港の隅々を視察と称して覗きまわったりという時間をとれた。実際そのお蔭で公務員の一人が庁舎の前に作った花壇や有志によって植えられた桜の苗木の成長を見守ることができたし、軍港勤務者たちとも馴染みになる機会に恵まれた。その誰もが、提督と小さな秘書艦に期待と、それからほんの少しの不安を顕わにしたので、提督と吹雪はともかく不安だけはなんとか取り除くのが当面の目標と設定して、眼下に広がる暗ぼったい海を見晴るかしたのだった。
 程なくして子日が鎮守府に加わった。これで戦力は弐倍だ、快挙だぞと喜んだのも束の間のこと、編隊を組んで海域戦に出るようになったことで未確認艦娘が発見される頻度が格段に高まっていった。それに伴い、本土から支給される支援物資がようやくある程度の余裕をもって運用可能になったために、工廠での「艦娘建造」も軌道に乗り始めたから、所属艦娘の数は今までの半分の時間で二倍三倍といったふうな勢いで拡大していった。それは大いに喜ばしいことではあったが、同時に複数の懸案も招くこととなった。仔細は割愛するが、そのいずれもが、提督及び鎮守府全体の負担を大幅に増加させる結果をもたらしたのである。そうなったことで、提督のストレッチと気晴らしの散歩はいきおい単身で行われることにもなったし、たびたびそのわずかばかりの息抜きの時間すらとれぬほどの激務が執務室に持ち込まれるようにもなった。提督の身体は決して丈夫な方ではなかったために、睡眠と休息を奪われることによる疲労の蓄積は覿面にその影を鎮守府全体に落とすこととなった。特に、それらのとばっちりを強く受けたのが前述の赤城であり、そしてまだ精神的に未熟さを残すがために何かとトラブルを引き起こしがちだった睦月型の駆逐艦娘達だった。
 そういった数々の重要な悲劇の糸というものが、少しずつ鎮守府の中で紡がれ、絡まり、縒り合わさっていくのは必然だったといえる。
 その縒り合わさった悲劇の紐は、その輪に何某かの獲物を捕らえくびり殺すかと思われたのだが、しかしてそれを阻み斬りおとしたのが誰あろう、霧島だった。

 霧島は、持ち前の聡明さとそれを使いこなす才を既に身に着けていた。自分よりも先輩に当たるすべての艦娘の顔と名、そして戦力と得手不得手を早々に把握し、艦隊編成ローテーション草案をいくつもまとめて提督に提出した。残念なことに、その正確さと論理的整合性が提督の理解の範疇を越えていたために、その草案はしばらく後まで氷漬けにされてしまった。しかし霧島はまったくめげることなく、次の提案をまとめ、再び執務室のドアをノックしてきたのだった。
 当時、提督は曙を第一艦隊旗艦として秘書長に据えていた。曙は艦娘の中でもとりわけ難しい気質を持った娘で、提督に対して反抗的な態度を取りがちな霞、満潮と並んで「編成に入れたくないツンケントリオ(青葉談)」の一角に置かれていたのだが、それでも霞と満潮が周囲の艦娘とそれなりの関係性を保つ中で、孤独に戦いを求める傾向が強く表れていくのを憂慮した提督が目の届くところに置いておくため、それと吹雪による進言――「あの娘は遠い向こう側の景色が見えすぎてしまっていて、人ひいては提督に心を開けないでいる」――の意を理解せんがためにその立場に置いたのだ。その処置は果たして功を奏したと言えなくはなかったが、それ以上にやや厄介な事態を引き起こした。提督が曙に対して、やや偏った感情を抱いてしまったのだ。それはいわゆる恋慕や寵愛といったものとはやや異なっていて、どちらかといえば提督の中に眠っていた隠れた性癖を呼び覚ました、というべきかも知れない。提督は主として父親につっつけどんな反応しか返せない難しい年頃の娘のそれに似た態度を彼女の行動に見出すのと同時に、「クソ提督」と呼んで憚らないその姿に自分を信頼しているが故に飾らず素直な言葉を投げかけてくれている、という解釈をもって臨んだのである。
 その結果、提督執務室に顕現した光景はというと、始終秘書艦の顔を見つめては頬を緩めるしだらない提督の呆け面と、それに辟易して罵詈雑言の限りを尽くす花飾りの少女、その罵倒を愛情表現と認めてさらにしたり顔でえびすの表情をあらわにする提督、心底から戦場の空気の中で12・7ミリ連装砲を撃ち散らしたいと願う駆逐艦という絵図であって、そこに偶々居合わせなくてはならなかった第二旗艦、軽巡五十鈴改は後にあれは末子の代まで語り継ぎたい出し物だったけれど、二度と見るのは遠慮したいものだわ、と語ったものだった。
 そういった提督と曙との「蜜月」の関係は霧島の英雄的行為によって終わりを告げた。提督の顔は次第に初期の張りを取り戻し、曙はほんの少しだけ、提督と、それから肩を並べる僚艦たちに対しての態度を和らげるようになった。霧島による、「第七駆逐艦隊」すなわち朧・潮・漣に曙を加えた四隻編隊の概念が提督に伝わり、その編成を元とした艦隊編成が組まれるようになったためだ。その概念は、吹雪の進言にある「遠い向こう側」からもたらされたものであって、提督を含む鎮守府の人々の知識にはない類のものだったが、しかし確実に曙の情動にとっては芳しい処方であることは火を見るより明らかだった。提督はそれから、艦娘たちの持つ「向こう側の景色」に対して真摯に向き合うべきだと考えを改めるようになったのだ。これにより、“一航戦”赤城に対する誤解と色眼鏡もまた、あるていど解消される運びとなった。赤城は積極的に艦隊編成に組み込まれるようになった。
 ただ、相変わらず赤城はともすれば前に踏み込み過ぎて手痛い反撃を食らうのをやめなかった。戦艦仲間としてたびたび行動を共にする蒼龍は「アレは地だと思いますよ」とあっけらかんと嘯いたし、同じく翔鶴は「赤城さんはまだ本領を発揮できないでいるだけなんです、加賀さんと肩を並べさえすれば一航戦は…!」と熱弁を振るったのだが、提督は未だ「加賀さん」という単語の示す対象の心当たりを見つけ出してはいなかった。艦娘達の中にははたびたび、そんなふうにして鎮守府には在籍していない誰かの名を口に出す者が多い。翔鶴はことあるごとに瑞鶴という妹を気遣うし、比叡はおねえさまおねえさまと誰かをほこらしげに呼ぶ。霧島も比叡の姉のはずなのだが、どうも比叡のいうおねえさまはただ年上の姉妹を指すのではなく特定の艦娘を示している節がある。千代田、利根といった者たちも姉妹・僚友の名をよく出していたが、幸運にも彼女らはその対となるべき半身に巡り合えたものたちだ。千代田は姉千歳と、利根は妹筑摩との「再会」を果たし、今は菊華寮で2人部屋を仲良く分け合っている。いつかは赤城も翔鶴もその片割れに出遭うのだろう。

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[2014.01.30(Thu) 23:15] 艦これTrackback(0) | Comments(0)
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